イタリアの
普通のおじさんたちと、
おじさんみたいな格好をした
若者たちのスナップ
撮影/山下英介
もうだいぶ季節は春めいてきてしまったけれど、「ぼくのおじさん」はこの冬取材してきたイタリアのファッションについて、記事を制作した。あまりにも魅力的だったがゆえに、いい意味でも悪い意味でもひとつのイメージがつきすぎてしまったけれど、改めてイタリアのおじさんたちの装いに、注目してみませんか?
イタリアは普通の
おじさんが格好いい!
この2月、「ぼくのおじさん」はイタリアのミラノとフィレンツェに取材旅行に出かけた。「ぼくのおじさん」としては初めての海外取材という形になるが、実は編集人は2000年代半ば頃からコロナ禍の直前まで、年に2〜3回の出張を欠かさなかった、とてもなじみ深い国でもある。それらの取材のテーマは主にファッションで、携わった雑誌のテイストに合わせて、たくさんのちょい不良オヤジやダンディのお洒落ぶりを紹介してきたものだ。しかしそうしたイタリアのキメキメの格好つけな側面ばかりが紹介されすぎた副作用なのか、もしかしたら「ぼくのおじさん」を読んでいる若い皆さんの中には、イタリアのファッションに対してちょっとネガティブなイメージを抱いている人もいるかもしれない。いや、はっきりいって結構いるはずだ・・・!
そういったたくさんのイタリア記事をつくってきた当事者のひとりとしては、ここで誤解を解いておきたい。みんながイメージするキメキメなイタリアはごく一部の世界であって、大部分のイタリア人の格好は、全くもってあんな感じじゃないのである。そして編集人が最も愛するイタリアのファッションは、そういった普通のおじさんたちの装いなのである、と。
というわけでここでは、イタリアの普通のおじさんたちと、おじさんみたいな格好をした若者のスナップを掲載させていただくことにした。
北イタリアの冬の風物詩、
ローデンコート
冬のイタリア、特に北部を旅したことのある方ならご存知かと思うが、とにかくおじさん世代の着用率が高いのが、後付けの袖とぱっくり割れた背中のインバーテッドプリーツ、そしてAラインのシルエットを特徴とする、ウール製のコートだ。
実はこちらは、オーストリアからイタリア北部にまたがる、アルプス山脈東部のエリア、すなわちチロル地方で生まれたハンティング用のコートで、その名も「ローデンコート」。中世においてはハプスブルグ家の所領であり、今もなおドイツ文化を色濃く残すこの複雑な文化圏で、羊飼いたちが織っていたウール系の縮絨生地、「ローデンクロス」を使ったコートである。現在このコートがつくられているのは、ほとんどオーストリアの工場。色は森林と同化するような「ローデングリーン」と呼ばれるグリーンが定番だが、ネイビーやグレーなども展開されている。
ハンティングをルーツにもつだけあって、とても暖かく動きやすいローデンコートは、ミラノあたりでは本当によく見かけるアウターで、いかにもお金持ちっぽい人から普通のおじいさん、そしてホームレスのおじさんに至るまで、幅広く愛されている。ハンチング帽とくたびれたスラックス、そしてぼってりした革靴とのコーディネートが鉄板だ。
そんな北イタリアの大定番ローデンコートは、古着屋さんで安く手に入ることもあって、若者たちが着こなしている姿もよく見かける。
彼らの着こなしはおじさん世代とは全く異なり、スニーカーやジーンズを合わせていたりするのだが、それはそれでいい味を出している。こういったコートをつくるメーカーも、近年ではファッションシーンの枠組みの中でモダナイズされた新作を発表していたりするのだが、やっぱりオリジナルの魅力には敵わない。北イタリアの冬の風情のひとつとして、絶対になくなってほしくない文化である。
イタリアのおじさんは
英国びいき
イタリアのおじさんたちの冬の装いを見ていると、ローデンコートとはまた違った、ハンティングやバイク由来のハーフ丈アウターを着ている人がとても多いことに気がつくだろう。それもバブアーのオイルドジャケット(最近はあまり見なくなったが)を筆頭に、ツイード製のゲームジャケット、ベルスタッフのバイカーコートなど、英国ものが実に多い。そう、なんだかんだ言って、ミラノからフィレンツェあたりのおじさんは英国びいき。ぼくたちがいかにも「イタリアっぽいな〜」という感じるコテコテでカラフルな人は、ナポリを中心とした南部に多く、そのイメージは、彼らが大挙して押し寄せるファッションウィークを通じて拡散していったのだと思われる。
そして最近のイタリアの若者たちは、ぼくたちと同じように、そうした〝いかにも〟な格好よりも、ここで紹介するおじさんやおじいさんのような、味わいのある着こなしを好むようだ。
着古したバブアーのジャケットにブラックジーンズを合わせつつ、きれいな色のニットポロを合わせた彼女なんて最高! しかもベルボトムだぜ!?
おじさんたちが培ってきたクラシックなファッション文化にリスペクトを捧げつつも、自分なりの着こなし方で楽しむイタリアの若者たちを、ぼくは素直に格好いいと思うのだ。
イタリアのおじさんは
やっぱり素敵だ!
よく考えてみたら、ぼくたちのようなメディアがイタリアのおじさんたちのお洒落を紹介しはじめたもともとの理由とは、彼らが〝装う〟ということを、流行なんて関係なく、自分らしく楽しんでいるからだった。
でも取り上げる側が、彼らを典型的なスタイルにカテゴライズしたがったことで、いつしかそのイメージは、イタリアのファッションを窮屈な枠組みの中にしまいっぱなしにしてしまった。だから「ぼくのおじさん」は、そんな固定観念を解きほぐし、もう一度素直な心で、イタリアのおじさんたちのお洒落や、その文化を紹介してみたい。
ほら、彼らはこんなにも自由に、そして素敵に、ファッションと人生を謳歌しているよ、と。
「ぼくのおじさん」がこれからつくっていくイタリアの記事を、ぜひお楽しみください!