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インタビュー"
アイビーとアウトドアを
ひとつにしたおじさん
イラストレーター
小林泰彦の
〝ヘビアイ〟暮らし(前編)
撮影・文/山下英介
SPECIAL THANKS/粕谷誠一郎
ジャケットの上にマウンテンパーカを羽織ったり、リュックを背負ったり。街でダウンやスニーカーを履いてみたり。今、ぼくたちが当たり前のように楽しんでいるミックススタイルに、〝ヘビーデューティーアイビー〟略して〝ヘビアイ〟なる名前をつけて、日本で初めて提案したのがイラストレーターの小林泰彦さん。今回は、編集者・粕谷誠一郎さんの案内のもと、そんな偉大なるレジェンドが余暇を楽しむ〝山小屋〟へと伺った。そこでぼくたちが見た光景は、89歳という年齢からは全く想像もつかない、カッコよすぎるカントリーライフだった・・・! 3回連続でお届けする小林泰彦さんインタビューをお楽しみあれ!
愛車はロードスター!
気ままな山小屋ライフ
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小林さん、まさかユーノスロードスターで迎えに来ていただけるとは・・・! もう感服です。ヘビーデューティーの生みの親としては、ジムニーとかジープあたりなのかな、とイメージしていましたが。
小林 今はユーノスとは呼ばなくて、ただのロードスター(笑)。MG以来の2シーターです。ぼくは四駆と2シーターの2台持ちが理想で、今まではずっとそういう生活をしていたんです。特にスバルが大好きで、スバルの四駆を10台以上乗り継いできました。実はちょっと前にカミさんがジムニーを売っちゃって、今はこれしかないから不便なんです(笑)。
いやあ、クルマもすごいですが、小林さんが〝掘立て小屋〟と仰ったカントリーハウスもまたすごい・・・! 今日は小林さんのイラストレーター人生を根掘り葉掘り伺おうと思っていたんですが、まずはこのお宅について伺わざるをえませんね(笑)。
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小林さんが「泰山居」と称する、甲斐駒ヶ岳の麓にあるカントリーハウス。小林さんは今もなお愛車ロードスターを駆り、都内と田舎の二拠点生活を楽しんでいる! ちなみに今回「ぼくのおじさん」と小林さんをつないでくれたのは、編集者の粕谷誠一郎さん。小林さんとは『POPEYE』編集部時代からの付き合いだ。
小林 丸太小屋とかだったらいいんですが、ただのプレハブ小屋ですからね。実はもともと、ここはトレーラーハウスにしようと思っていたんですが、トラックが入れなかったので諦めたんです。こんなところでいいんですか?
粕谷 いや、すごく小林さんっぽいですよ。
ここに来られるときは、どんなふうに過ごされているんですか?
小林 実は何もしていませんね。寒くなったらここで火を起こして、薪がバチバチいっているのを眺めているだけでもう十分だなって。あと、ここに寝転がってると、家の中から駒ヶ岳が見えるんですよ。今日は雲りだから見えないけど。家の中から3000メートルの岩峰が見えるところなんて、そうないです。
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野生動物なんかも出るんですか?
小林 ここは標高700メートルくらいなんですが、鹿はよく見かけますね。猪や猿みたいな、人に危害を加える動物はいませんが。
今でも薪を割ってストーヴにくべたりされているんですか?
小林 ここに来てから20年くらいは。そこらへんで大きな木の枝を拾ってきて、半年くらい置いておけば薪になるんですよ。すぐに燃やしちゃうと油が出て、煙突がダメになるから。最近はこのあたりも家が多くなってきたし、泥棒になっちゃうから、薪拾いはできませんけどね。
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書や陶芸などもされているようですね。
小林 気が向いたときは作陶しています。最近は字を書くのが面白くて、もっぱら絵を描かずに字ばかり書いていますけど。
私の知人が小林さんとメル友なんですが、よく小林さんと歌仙を巻いている(ふたり以上の詠み手が、五七五の長句に七七の短句を交互に三十六句続ける遊び。「詠む」を「巻く」と呼ぶ)って仰っていました。小林さんから上の句が送られてきて、下の句を返すという、実に高度なやりとりを(笑)。
小林 まあ、そんな其角(きかく)や芭蕉に憧れたことをやってますが(笑)。
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さらにすごい中編に続く!
1934年東京都日本橋区米澤町生まれ。武蔵野美術学校中退。1959年に「ヒッチコックマガジン」でアートディレクター兼イラストレーターデビュー。以来『男の服飾』(現『MEN’S CLUB』)、『平凡パンチ』『POPEYE』『山と渓谷』などの雑誌で、イラストや原稿の執筆、グラフィックデザイン、写真撮影など幅広く活躍する。著書多数。兄は小説家の小林信彦。