2025.1.21.Tue
今日のおじさん語録
「人間はすこしぐらい品行は悪くてもよいが、品性は良くなければいけないよ。/小津安二郎」
お洒落考現学
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連載/お洒落考現学

新しい物語の誕生。
國立外套店と
オーベルジュがつくった
夢と陶酔の
コルビュジエジャケット

撮影・文/山下英介

「ぼくのおじさん」でもおなじみの〝夢と陶酔の洋服商〟「國立外套店」の佐藤閑(さとうかん)さんと、フレンチヴィンテージ博士・小林学さんの「オーベルジュ」とが、初めてのコラボレート! 異なるアプローチから〝フランス〟と〝ヴィンテージ〟の可能性を追求していたふたりは、いったい何をテーマに、何を産み出したのか? 伝説の一着をお見逃しなきよう。

ル・コルビュジエは
本当にフォレスティエールを
着ていたのか?

それぞれ違った角度からフレンチファッションの真髄を追求しているおふたりが、〝ル・コルビュジエ〟をテーマにコラボレーションするという噂を聞きつけて、今日は取材をお願いしました!

小林学 コルビュジエがファッションの文脈で捉えられ始めたのって、意外と最近なんですよね。それまでは『カーサ ブルータス』的な切り口ばかりだったじゃないですか。あとはメガネと蝶ネクタイ(笑)。 

佐藤閑 いわゆる「コルビュジエジャケット」と呼ばれているレザージャケットは、昔から人気だったんですか?

小林 あれは昔からありましたけど、フィーチャーされ出したのは2000年代以降だと思いますね。それまでは〝革のピーコート〟程度の扱いで、価格も非常に安いものでした。デザインは素晴らしいのですが、実際のところ重いし革質も悪いしで、なんとも言えないジャケットですよね(笑)。

佐藤 いわゆる国有企業や行政機関の支給品なんですよね。

「國立外套店」では扱われているんですか?

佐藤 それはないですね。私はワークの分野には手を出しませんので。

小林 「國立外套店」さんはノーブルですからね(笑)。これは例えるなら東京ガスの検針員さんが着てるジャケットみたいなものですし。コルビュジエといえば、最近では「フォレスティエール」が話題にのぼりますが、あれって本当に着ていたんですかね?

佐藤 「フォレスティエール」を語るとき、絶対にコルビュジエという名前が冠にきますが、正直言ってそのエビデンスはありません。フランスの図書館のサイトなどで資料を漁ってみても、一向に出てこないんです。ジャン・コクトーは実際に着ていたようですが。ただし、「フォレスティエール」をつくっていたアルニス自体とコルビュジエのつながりを示すファクトはそれなりにありますね。なによりアトリエ自体がご近所だったわけですから、同じ場所、同じ時間を生きて、交流のあったことは間違いないでしょう。

20世紀半ば、文化人が集うサロンと化していたアルニスと、フランスNO.1の建築家だったコルビュジエの付き合いがないほうが不自然ではありますよね。

小林 「フォレスティエール」って「黒板に字を書くときに腕を上げやすいように」みたいな物語があるじゃないですか。ですからフランスのワークウエアを分析し続けてきたぼくとしては、そのための型紙上の工夫がいっぱい詰まっているんじゃないかと思っていました。でも検証してみたところ、意外とシンプルだったんです(苦笑)。ガウンに近いというか。

佐藤 そうですか(笑)。

小林 でも、できあがった雰囲気は抜群だし、コルビュジエの物語だって納得させられるオーラがありますよね。それって襟にせよ袖にせよ生地にせよ、隅々まで硬い場所がないからなんですよ。この柔らかさがイタリア的でもなくイギリス的でもない、フランス的なムードにつながっているんだと思います。

佐藤 私としては、「フォレスティエール」の最大の魅力って、そうした不完全さだと思うんです。隙というかゆとりというか、この余裕が着る人になじむ所以なのかと。

小林 フランスのヴィンテージウエアの型紙って、貴族が自身の威厳を誇示するために男性性を強調したものと、労働者の動きやすさを追求したものと、ほぼ2通りに分かれるんですよ。しかも、それらはハンドメイドで仕立てるのが前提。これによってフランスの服って、徹底的に合理的につくられたアメリカの服とは違って、格段に読み解きにくくなっているんです。目的も年代もわからない服がたくさんありますよ。このミステリアスさがフランス服の魅力であり、「フォレスティエール」の魅力にもつながるのかな、と思いますね。

古着屋の幻想と
デザイナーのリアルが
産んだ新たなる名品

今回のコラボレートはそんな対話から生まれたそうですが、いわゆるレプリカではないんですよね?

佐藤 私はピュリスト(純粋主義)なので、それはやらないですね。古着屋としてものづくりとの間に一線を引くべきだと思っているし、そもそも私は、欲しいものは探すというスイッチしか持っていないんです(笑)。そういう意味では、私が関わるのであれば、現在世の中に存在しないものしかありませんでした。だからこそ、ティーンエイジャーの頃からファッション雑誌を通して尊敬していた、小林さんのものづくりを頼りにしたわけです。

小林 佐藤さんはものすごく物事を深く考えて追求される方なんですよね。なので今回は、自分たちが想像するル・コルビュジエという人物像をより突き詰めていくような作業で、新しいジャケットをつくりました。コルビュジエのレザージャケットというリアルと、「フォレスティエール」というファンタジーを融合させるような(笑)。それではご覧ください!

ふたつのジャケットの要素を組み合わせつつも、取ってつけたような安直さは全く感じさせない、自然でクラシックなデザイン。この風格はすごい!
サイズは38、40、42、44の4サイズ展開。小林さんが着用しているのは42サイズだ。肩のドロップ感と袖の太さがたまらない。


襟裏と袖口の裏にはネイビーのカシミア生地を採用。
素材には北海道産の最高級カーフ(生後3ヶ月以内の子牛革)を採用。レザーの素晴らしい風合いを残しながらも、染色時の特殊な加工によって、防水効果も施されている。コルビュジエジャケットよろしく、ガシガシ使える一着でもあるのだ。


もちろんディテールにも抜かりなし。身頃部分の裏地はウール100%だ。
ブラックながら、革の自然な風合いを生かした染色により、モードに偏りすぎないクラシックな発色。これなら茶色の革靴とも合いそうだ。
職人泣かせのディテール、両玉縁のボタンホール。普通のボタンホールと較べると工賃は跳ね上がるが、アルニス的な高級感の演出には欠かせない。
これですか・・・。う〜ん、ものすごい存在感。ヴィンテージの風格が漂ってます!

佐藤 あたかも昔からあったワークウエアかのように自然なデザインですよね。

小林 基本となるシルエットは「フォレスティエール」をベースにしつつ、コルビュジエレザージャケットのデザインを取り入れているわけですが、ただのいいとこ取りじゃありません。さまざまなデザイン上の工夫を取り入れていますから。

佐藤 フロントがダブルブレストになっている点も「フォレスティエール」にはないデザインですね。

小林 これはポケットを違和感なく配置する上で、とても苦労したポイントです。

佐藤 素材は、以前小林さんのアトリエで拝見したレザーにグッときたので、それとカシミアを組み合わせたいとお願いしました。私は黒い服をあまり着ないのですが、これは〝私が着られる黒〟だなと。

小林 これは北海道産のカーフを素上げにしたものなので、まるで赤ちゃんの肌のように自然な表情なんです。古着の「コルビュジエジャケット」って、ラッカーで表面に塗料をかけて仕上げているだけなので、すぐにパキパキになっちゃうんですよね。

佐藤 完成品を見て驚きました。きっとこれならコルビュジエも着たかっただろうな、と。

小林 最高の褒め言葉、ありがとうございます(笑)!

ファンとしては定番化してほしいところですが、今回のジャケットは今年限りの完全受注生産とのこと。「伊勢丹メンズ館」と「ぼくのおじさん」のアトリエでしか買えないので、ぜひお越しください!

期間限定!
國立外套店とオーベルジュの
コラボレートジャケットは
ここで買えます!

【商品データ】

⚫︎素材/牛革(カーフ)・カシミア100%(襟・袖口裏)・ウール100%(身頃の裏地)
⚫︎価格/¥363,000(税込)
⚫︎サイズ展開/全4サイズ展開(38、40、42、44)

⚫︎納期/3月中旬予定

※記事公開時の価格に謝りがあり、2024年12月5日に訂正しております。謹んでお詫び申し上げます。

【ここで買えます!①】

12月11日(水曜)〜15日(日曜)

ISETAN STORY STORE

⚫︎開催場所:伊勢丹新宿店 本館6階 催物上

⚫︎問い合わせ先:伊勢丹新宿店(TEL03-3352-1111 大代表)

【ここで買えます!②】

12月21日(土曜)〜22日(日曜)

12:00〜19:00

Atelier Mon Oncle トランクショー

⚫︎開催場所:東京都新宿区水道町1-9 しのぶ荘104

⚫︎問い合わせ先:info@mononcle.jp

佐藤閑(國立外套店)

大学院中退後、通信会社を経て大手アパレル企業に勤務。コロナ禍を機に、欧州ブランド古着のコレクターとして蒐集したヴィンテージウエアのオンライン販売をスタートさせる。近年では伊勢丹新宿店や大手セレクトショップでの販売会も好評。人呼んで〝夢と陶酔の洋服商〟。

小林学(AUBERGE)

湘南鵠沼生まれ。文化服装学院を卒業後、1988〜91年までフランスで遊学し、古着と骨董、モードの世界に耽溺。帰国後はフランスのアパレルメーカーの企画職や岡山のデニム工場勤務を経て。1998年に「スロウガン」を創業する。2018年には新ブランド「オーベルジュ」を立ち上げ、フレンチヴィンテージ的ものづくりの、さらなる深淵へ。

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