韓国・済州島で見つけた
素敵なおじさんジャケット
「カルオッ」研究
撮影・文/山下英介
ヨーロッパには、「マレンマ」や「テバ」に代表されるハンティングジャケットがある。アメリカには、カバーオールやGジャンといったワークジャケットがある。日本には、刺し子の野良着がある・・・。世の中には、その国の歴史や風土を象徴するような名品ジャケットが無数に存在し、名もなきおじさんたちによって、長年受け継がれてきた。それらは単なるファッションじゃなくて、なくしてはいけない文化。均質化していく世界における宝物のような存在なのだ。今回「ぼくのおじさん」が紹介するのは、韓国の済州島で生まれ、現地のおじさんたちに愛されてきたジャケット「カルオッ」。現代のファッションにも合う優れものだから、ぜひみんなにも味わってもらいたい!
韓国のおじさんジャケット、人呼んで
コリアン・フォレスティエール
最近、「ぼくのおじさん」の編集人が好んで着ているジャケットがある。組紐ボタンで留めるタイプだから、たいていの人はいわゆるチャイナジャケットだと思ってるだろうけど、実は違う。こいつはメイド・イン・コリア。それも済州島(チェジュ島)の民族衣装なのである!
ぼくにこのジャケットの存在を教えてくれたのは、「ぼくのおじさん」の仕事を何度も任せている若きクリエイター、高原健太郎。彼が自身のルーツである済州島を訪ねたときに、お土産として買ってきてくれたのだ。
組紐ボタンのついたチャイナ風のデザインだけど、こっちはよりワークウエアっぽいカジュアルかつ簡素な一枚仕立てで、生地も洗いをかけたようなラフな質感。オレンジというより柿っぽい渋い色味も洒落ているし、決してコスプレっぽくならないところが気に入った。しかもこれ、サルエルパンツのように裾がすぼまったシルエットのパンツまでついてくるのだ。現地では作務衣感覚で着られているようだけど、ぼくにとってはとびきりのお洒落! 以来勝手に「コリアン・フォレスティエール」と名付けて、日々の装いに取り入れている。個人的にはチノパンやちょっと太めのホワイトパンツに合わせるのがお気に入りだ。実際の名前は「カルオッ」と呼ぶらしい。
「カルオッ」を買ってきた!
世界の土着的な服飾文化に興味津々な「ぼくのおじさん」としては、そんな「カルオッ」をもうちょっと調べてみたい! そしてできることなら販売してみたい! そんな思いが高じて、改めて高原くんに済州島に渡ってもらい、この服を現地で買えるだけ買ってきてもらった次第である。その内容についてはこちらの記事をご覧ください。
ちなみに、この旅行の段取りをつけている間に「POPEYE」の韓国特集で取り上げられてしまったのが少々残念なのだが、これに目を付けたのは、ぼくたちのほうが早かったんだぞ!ということだけは言っておきたい(笑)。
さて、現地における「カルオッ」は売ってる人も買ってる人もかなり高齢で、取材や卸売みたいな概念もほぼなく、もちろんメールなんてやってない。ずいぶんコミュニケーションには苦労したそうなのだが、とにもかくにも高原くんは手に入る限りの「カルオッ」を買ってきてくれた。実はお店によって微妙なデザインやディテールの違いがあって、ファッションとして取り入れるのには不向きなものも多く、あまりたくさんの数は買い付けられなかった。
「カルオッ」を着てみた!
しかし彼が買ってきてくれた「カルオッ」はかなりの逸品ぞろい。ぜひその全貌をご覧いただきたい。
まずは身長168㎝の編集人が最近愛用しているオレンジ。
多少クセはあるが、意外と合わせるアイテムを選ばず、使いやすい色だと思う。個人的にはチノパンやホワイトのワークパンツに合わせることが多いが、あえてサマーウールのトラウザースのような、きれいなパンツにコーディネートするのも素敵だと思う。生地はとても軽く、着心地は本当に楽ちんだ。
ちなみに編集人は何度かこの服を自宅で洗濯してみたが、気になるような色落ちは見られなかった。
続いて身長181㎝の高原健太郎に着てもらったのは、ブラウン。モデルが変わったことで、この服がもつポテンシャルがようやく伝わると思う。力が抜けてて格好いいでしょ?
さっき「作務衣っぽい」と書いたけど、この色ならば上下で着ても十分アリだし、上にコートを羽織ったらさらに素敵だと思う。ゆとりのあるシルエットとテーパードの効いたパンツとのコントラストが、なかなか洒落ているのだ。
そして最も着こなしやすい色といえるのがブルー。
こちらはちょっとインクっぽい深みのある色で、上下で着るのはもちろん、様々な着こなしに映えると思う。
ちなみにこの服は、「大」と呼ばれるLサイズと、「特大」または「別大」と呼ばれるXLサイズの2サイズ展開。基本的にゆったりめのサイズ感と解釈してほしいのだが、「大」ならご覧のとおり、女性にもよく似合う。ちなみに彼女の身長は154㎝。パンツに関しては女性がはくとウエストのゴムが緩くなってしまうと思うが、ぜひトライしてもらいたい。
そして最後に、ちょっとパープルがかったブルー。これは現地でも珍しい色のようで、1着しか買ってこれなかった。
おばちゃんの
手染めスカーフ
以上が「ぼくのおじさん」が買い付けた「カルオッ」のバリエーションなのだが、これと合わせて皆さんに見てもらいたいのが、同じ済州島のおばちゃんが手づくりしているスカーフだ。こちらはおばちゃん自ら柿渋を使って染めたコットン生地を裁断し、縁をミシンでかがって仕立てたもの。まるでガーゼのように薄く、透け感のある生地なのだが、柿渋による化学変化なのか、少しパリッとした肌触り。これが湿気の強い日本にはぴったりだ。かなり大袈裟だけど、エルメスの後染めスカーフ「ディップダイ」を思わせるニュアンスに富んだ質感で、こちらも編集人と高原健太郎は好んで身に着けている。実はこのスカーフはすでにオンラインストアで少量販売したことがあるのだが、そのときはあっという間に完売した。
「ぼくのおじさん」のアトリエで
「カルオッ」に触れてみよう
さて、以上が「ぼくのおじさん」による済州島買付けの全貌だが、せっかくだからオンラインストアで販売する前に、「ぼくのおじさん」が運営するアトリエで、皆さんに実物を確かめてもらおうと思っている。なんせ個体差が大きいので、実物を見てもらうのが一番なのだ。
価格は「カルオッ」を上下セットで2万7,000円+税、スカーフを5,000円+税と設定させていただいた。この服のポテンシャルからするととてもリーズナブルだとは思うが、正直に言うと、もちろん現地価格よりはずっと高い。済州島では安価に販売されているものだから、実際に韓国旅行を予定されている方は、現地での購入をおすすめしたい。「ぼくのおじさん」は、この取材と買い付けにかかる費用や、実際に着られる個体をチョイスする手間を踏まえた価格を設定させてもらっているので、ご理解いただけると幸いである。もしかしたら今後、より効率的に仕入れられる手段が見つかったときは、もっと安く展開させてもらうかもしれないので、その際はご容赦いただきたい。ちなみに現地の事情通によると、POPEYEの韓国特集に掲載されていた「カルオッ」の価格は、現地における実勢価格よりもかなり安価に記載されており、この価格で常時販売されているとは考えづらい、とのこと。
アトリエでの販売の詳細については下記にまとめているので、ご確認ください。
そういえば「ぼくのおじさん」が最も尊敬する伊丹十三さんは、1960年代に雑誌「平凡パンチ」の記事のなかで、こんなことを綴っていた。
私はいいものが好きである(ただしいいものすなわち一流品とは限らない)。そうして私は安物というものに耐えられない(安物すなわち安いものとは限らぬ)。
そんな観点に立ったとき、この「カルオッ」は一流品かどうかはわからないけれど、間違いなく〝いいもの〟だし、安いけれども決して〝安物〟ではないはずだ。後年チャイナジャケットを愛用した伊丹さんに、ぜひこれを着てもらいたかったな。
※「カルオッ」を「ぼくのおじさん」オンラインストアで展開開始いたしました!
- 「カルオッ」展