eriさん、教えて!
環境にいいものを
買えない私って
ダメですか?(前編)
インタビュー/ミノリ
撮影・文/山下英介
2022年に「ぼくのおじさん」に登場、栗野宏文さんと語り合ってくれた、ミノリさんのことを覚えているかな? 現在は大学を卒業し、女優やモデルを目指して奮闘中の彼女は、社会学を学んだことから環境問題にも興味津々。そんな彼女が最も影響を受けている人物・・・つまり〝ぼくのおじさん〟的存在として挙げてくれたのが、ヴィンテージショップ「DEPT」のオーナーであり、アクティビストとして活動しているeri(えり)さんだった。この春、そんな彼女の念願が叶ってeriさんへのインタビューが実現! その模様を「ぼくのおじさん」に掲載させてもらった。
古着屋「DEPT」の
家に生まれて
ミノリさんは、eriさんにとても影響を受けているそうなんですよ。
ミノリ 使い捨てをやめてマイボトルを持ち歩くようになったのも、eriさんの影響なんです。始めてみたら必要なのはちょっとの手間くらいで、お金もかからないし、今までなんでペットボトルを買っていたんだろうって、今は不思議で。
eri あら、嬉しい(笑)。今日はしょうもないことでもいいから、なんでも聞いてくださいね。
まずは「ぼくのおじさん」っぽい歴史的な話から伺いたいんですが、もともとeriさんのお父様は、1981年に創業した伝説的な古着屋「DEPT」の創業者である永井誠治さんなんですよね? やっぱりeriさんに最も影響を与えた人物は、ご両親なんですか?
eri そこは不可避ですね(笑)! 人物でいうとそうなります。
やっぱり子供の頃から、今でいうエコロジーな生活をされていたんですか?
eri 今皆さんが想像するようなエコロジカルな家かって言うと、全然そんなことはないですよ。この辺で育った超都会っ子なので、野山を裸足で駆け巡るみたいな子供時代ではありませんでした。でも、父自身がヒッピーだったこともあって自然環境に配慮しながら生活していくっていう概念的なものは教えられたし、そういう中で育ったという意識はありますね。2択があれば、環境によいほうを選んでいたとは思います。
それが今のような具体的な活動に至ったきっかけは何だったんですか?
eri もともとアル・ゴアの『不都合な真実』などを通して、気候変動についての興味は持っていたのですが、最も大きなきっかけは2019年にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)のレポートを読んだことです。今の地球温暖化とか気候危機がどれくらいの状況で、どれくらい切羽詰まったものなのかに、そこで気付きました。
とはいえ、もともとジャンクフード好きだったなんてこともなく?
eri いや、今でもジャンクフードは好きですよ。
えっ、そうなんですか?
eri L.A.で仕事するときは、お肉を使わない「veggiegrill」というファーストフード店によく行くんですよ。そこが完全無添加かと言われるとよくわらからないけど、あまり気にせず、ヴィーガンファーストフード行く? イェイ!みたいな(笑)。だからすごくストイックかと言われると、そうでもないような気もするんですが。
買えなくても
私たちにできることはある!
ちょっと安心しました(笑)。ではミノリさん、大変お待たせしました。尊敬するeriさんへの質問をどうぞ!
ミノリ 洗剤、シャンプー、トリートメントといった暮らしに必要なものは、極力環境にいいものを選びたいという気持ちはあるんですが、今の私の立場からするとお値段が高いんです。安いものがすぐ隣にあるけど、どうしよう?という悩みをいつも抱えているんですが、そのへんの折り合いをどうつければいいのか、わからなくて。
eri 私もつい自分を責めちゃうときがあるんだけど、前までは何も考えず買っていた自分だったってことだから。それと比べたら、気付いて葛藤しているだけですごくない?って。すでに考えてものを買っているわけだもん。
ミノリ おかげさまで(笑)。
eri 環境にいいものを買えない自分がダメだなんて、思わないでほしいなあって。例え買わなくたって、そういった製品をSNSにあげたり、ブランド側に「すごくほしいけど高くて手が出ませんでした」って言ってみるのもいいと思う。そういう声がいっぱい集まったら、メーカー側が努力してコストが下がったり、行政が動いたりっていう可能性だってうまれる。買う側のアクションって、実は買うこと以外にもたくさんあるから、買えないというだけでストップしないほうがいいなあって思います。これが最適解になっているかわからないけど。
ミノリ eriさんから見て、何も考えていないなって思う人は多いですか?
eri 街に出てみたら、ほとんどみんな考えてないように感じちゃうよね(笑)。
ミノリ 日本と海外との違いは感じますか?
eri うん、違うと思います。自分の食生活が野菜や植物中心になって6〜7年目くらいなんだけど、最初の頃は「私ヴィーガンなんです」って言ったら、けっこう高級なレストランでも「お米は大丈夫ですか?」なんて聞かれていたから。いや、お米は植物だからって(笑)。最近はだいぶ広まってきたけど、それくらい当時の認知度は低かったかな。だけど、海外に行けばヴィーガンやベジタリアンは当然通じるし、そこに必ず選択肢が用意されてる。例えば今の日本でも植物性ミルクはかなり認知されてきて、オプションで選べるようになってはきたけれど、海外はそこにいちいちプラス料金はかからないことが多い。
ミノリ オプション料金がかかったりしますよね。スターバックスでは最近追加料金がなくなったみたいですが。
eri 50円上がっちゃうだけでも、妨げにはなるよね。そういう違いはまだいろんなところにあるかな。グミを買おうとしても日本だとゼラチン入りしか選べないけど、海外ならヴィーガン用もあるし。自分で見て選べるっていうのが大切なんだよね。
ミノリ そういえば、さっき編集人の山下さんが「eriさんに買っていく手土産が見つからない」って困ってました(笑)。
eri そう、みんなを困らせてしまうんですよ(笑)。
ミノリ 確かに動物性の成分を使っていないものや、包装が少ないものを買うのは意外と難しいんだなって。
というわけで、本日は手ぶらで失礼します(笑)。過剰包装に関しては通販をやっている私たちにとっても大きな問題でして。プチプチを使うたびにeriさんの顔が心に浮かびます(笑)。
eri プチプチは最近、石油由来じゃないバイオ素材のものとか出てきてますよね。
それはいいことを聞きました! ミノリさんもそうだと思いますが、eriさんの活動を意識した後だと、日常生活に色々な気付きがありますね。
ミノリ そうなんです! ちなみに海外では、ファッションの消費スタイルも日本とは違うんですか?
eri もちろん国にもよるけど、海外では古着を買うということが、もっと身近だったかな。最近の日本では古着がファッション的にもてはやされているけど、私がよく行くアメリカ西海岸やフランスでも、新しいものを買う前に、まずは古着を探しに行くという感覚が強いと思います。アメリカだとリサイクルショップのことをスリフトショップって言うんだけど、「スリフティング」なんていう言葉もある。「ショッピング」とは別の言葉になっているわけ。「もうすぐハロウィンだからスリフティング行こうよ」って、コスチュームを探しに行ったりして。
ミノリ そうなんですか。古着ブームといっても、最近の日本では手に入れて、手放して、というサイクルが早くなっているような気もします。古着だからといって、すべてが環境にいいというわけでもないですよね?
eri 何と比べるかにもよるけれど、どんな古着でも新しいものよりは、エネルギー負荷は抑えられます。その古着が化繊だろうがファストファッションだろうが、世の中に既にあるものを選ぶほうが、断然環境にはいいわけで。
ミノリ じゃあ、昨今の古着ブームは、世の中的にはいいことなんでしょうか?
eri そう思いたい!
ミノリ さっき、「もてはやされている」ということを仰っていたのが、ちょっと気になったんですが。eriさん的にも今のブームはちょっと引っかかってるんでしょうか?
eri 二次流通させることを免罪符に新しい消費をどんどん産み出していくことになると、あまり意味をなさなくなるのかなって。なので、最近の古着ブームが100%いいよね、とは自分でも思えていないのかな。
ミノリ 古着ブームに勝とうとしてまた新しいものをいっぱいつくってたら、逆に廃棄も増えちゃいそうですしね。
eri そうだよね。
お買い物って恋愛!?
ミノリ 新しいお洋服を買うときに、この素材はあまりよくないとか、あるんでしょうか?
eri 何かを買うときに、常に選択肢があると思ってもらいたい! 普通のコットンとオーガニックコットンがあるとしたら、オーガニックのほうが環境負荷は低いとか、ヴァージンのポリエステルと再生ポリエステルがあったら、私は再生のほうを選ぶとか。石油由来成分は枯渇資源であるということ、天然素材と違って何百年も地球に残り続けてしまうこと、そしてマイクロファイバーとして自然界や人体にも悪影響を及ぼしてしまうことから、私はなるべく買わないようにしています。
ただ、天然繊維と呼ばれる中にも色々あって、コットンの環境負荷も相当高いので、それに替わるリネンやヘンプ、竹みたいな素材も選択肢の中に加えてみるのもいいと思う! でも、竹製品もレーヨンと同じ製法をとっている場合になると環境負荷が高かったりする可能性があるので、一概には言えなくて難しい。例えば化学繊維だとしてもタフに作られた超高機能なスポーツウェアなら選んでもいいかもしれないし、これは意外と難しい質問かもしれない!
だから新しいものを買うときに、大恋愛するレベルだったらいいってことかな。もう一夜限りの関係とか、ちょっと気になる程度でものを買わない(笑)! 「もうこの人のこと好きで好きでしょうがない!」ってなったときに初めて買えばいいんじゃない?って思ってるの。
ミノリ 確かに、一生添い遂げたいぐらいのものってありますよね。
eri それくらいの思いだったら買ってよし(笑)みたいな! まああんまり自分では想像できないけど、それがどんな素材でも、例えファストファッションだったとしても、狂うほど好きだったら買ってもいいと思う。自分の情緒的な耐久性を補完できるものであれば、素材のほうが後についてくるような気もするしなあ。
ミノリ やっぱひとつのものを長く使うのが一番豊かだと思いました。
eri そうだね。たいして着ない服を10着買うくらいだったら、その合計した値段でずっと長く着られる服を1着買った方が長い目で見たときにお得なはずなんだよね。
ミノリ 私もファストファッションブランドで洋服を買っちゃったときに、結局そのシーズンしか着なくて、損をしたこともありました。
eri だから、今みんなが求めてるコスパって、本当はぜんぜんコスパ悪いのでは!?って思ったりします。
フランスあたりでは、すでに企業が売れ残りの新品の衣料品を廃棄することが禁止(※)されているんですよね。
※2020年に公布、2022年から施行。
eri EU圏内は規制が色々あるんですが(※)、日本は法規制についてはまだまだこれから。数年前にメゾンブランドが売れ残り製品を焼却処分していたことが問題になって以降、空気感が変わったなという感じはあったけど、まだ開示義務がないので。売り場に並んでもいないような服を廃棄している企業は、まだたくさんあると思います。
※2023年12月に、EU圏内の事業者が売れ残った服を廃棄することを禁じる法案が大筋合意された。
既存の豊かさや
便利さをもっと疑おう!
環境の問題って、理屈ではわかってはいても、自分ごとにするのがなかなか難しいと思うんです。自分だけはいいだろうという気持ちがどこかに現れてしまう。eriさんがそれを自分ごとにできたのは、性格的なものなんでしょうか?
eri 性格なんですかねえ。私もIPCC1.5℃特別報告書を読むまでは、自分に関係してくるのはもっと先の話だと考えていたんです。だから、この10年でこれからが決まってしまうという切羽詰まった状況だということを知ったときに、本当に驚きました。それと同時に、まだ間に合うところにいるんだったら、何かやらないとダメだよなって思ったんです。少なくとも自分が仕事や生活において環境破壊に加担してしまうのは、生き方としてカッコ悪いとも思いました。それで自分にできることをやり始めたら、それが思いのほか面白かったという。
面白かった?
eri 食べるもの、着るもの、仕事の仕方、交通手段といった、自分の人生における1から100までを見直したときに、自分がいかに今まで何も考えずに生きてきたかということを、身につまされたというか。そして行動変容をした後の自分と、今の自分を比べてみたら、絶対今の自分のほうが楽しいし、クールだし、楽だし、美味しいし・・・みたいな、いいことしかなかったんです。地球と共に生きていくっていうことは、自分自身の在り方をアップデートすることでもあるし、ある意味では合理的なことでもあるんですよね。
合理的とはどういう意味ですか?
eri 今まで豊かで便利だと思っていたことが、実は経済的な意味でも手間という意味でも、自分の人生を窮屈にしていたっていう感覚がすごくあるんです。だから今は、自分のライフスタイルを変えていく中で、より自分らしい生き方を選択できているような気がして・・・ていうか、絶対にそう!
ミノリ じゃあ、環境を優先して我慢して生きているという感覚は特にないですか?
eri なんか我慢してるかな、うーん・・・。つまり、これくらい考え込んじゃうほど、我慢してないんですよね(笑)。何にでも代替案はあって、それがより美しかったり、より楽しかったり、より機能的だったりして、しかも自分の身近にすでにあることが多い。なので、結局人生って工夫だと思うんだよね。今の人間は工夫を忘れている。工夫をしていると、自分の中からさらに工夫が生まれてきて、それが循環することによって、ライフスタイルはどんどん豊かになっていくんです。そうなったら自分が自分自身をよくしているっていう感覚にもなって、メンタル的な自信や自己肯定感も上がるというか。
もう無敵ですね(笑)!
eri 豊かさを疑うっていうのが自分の中のテーマなんです。便利で豊かだと私たちが錯覚してるようなもの・・・例えば24時間コンビニが空いていて、いつでもご飯が買えるなんて便利に思えるけど、1日で夜中にコンビニに行くことが人生で何回あるんだろうとか考えたときに、それって本当の豊かさじゃないですよね?って思うんです。だから現代の人は不便さにすごく怯えているけど、実はその人生を窮屈たらしめているのは、過剰に求め過ぎている便利さなんじゃないかなって。
ミノリ DEPTは洋服だけじゃなくて雑貨やフレグランスなどもリリースされていますが、地球にあるものと密接につくられていて、すっごい楽しそう! そんなeriさんの姿を見て、私もとても憧れてます。
写真左/不要な紙を煮て溶かし、伝統的な美濃和紙の製法で再生させた、オリジナル和紙のレターセット。まとめるボタンも古着から出た1点もの。「同じものがひとつもない、はぐれたボタンも大切にしたらこんなに愛しい」(ミノリ) 写真右/再生繊維であるリヨセルを使った定番のキャミソール。「DEPTのインナーは周囲でも人気で、私もずっと狙っている。初めて実際に触ったら気持ちがよくてびっくり!」(ミノリ)
eri 昔から世界は限られた資源の中から工夫しながらものを産み出してきたわけで、そこに自分のものづくりも回帰しています。最新のテックも面白いとは思うんだけど、今の自分は伝統的なものや既にあるものを利用して何かをつくることに、興味があるんですよね。もともとこれでよかったのに、私たちはどうしてこんなところまで来ちゃったんだろう、って。
ミノリ 世の中がどんどんコスパとかタイパ重視になってすごい速度で動いているからこそ、昔からあるものが新鮮に見えるのかもしれませんね。
例えば重曹とかクエン酸があればけっこう事足りちゃうのに、なんで洗剤の新製品がこれほど毎年登場するのかとか、不思議なことがいっぱいありますよね。
eri 洗剤なんてほとんど中身は一緒なのに、いろんな用途に分けられて、大きなプラスチックのボトルに詰められて売っていますよね。しかもほとんどが水分なので、かなり重いでしょう? そういうものを大量に全国に運んだり海外から輸入するというのはかなり無駄が多く感じる。私は洗濯はもちろん、トイレ、お風呂、窓、水回りのお掃除にはすべてホタテパウダーを使っているので、洗剤は一切買いません。そうなるとドラッグストアにも行かなくなるので、ムダな買い物をしたり、重たい荷物を持って家まで帰ることからも解放されて、しかも経済的。「あれ、みんなまだ洗剤買ってるの?」と思っちゃいます(笑)。
後編は5月2日(木曜日)
18:00に公開します!
5月6日15:00〜、eriさんと仲間たちが渋谷にて反戦デモを開催予定! 興味のある方は、WE WANT OUR FUTUREのInstagramアカウントをチェックして、ぜひ参加してみよう!
- eri(えり)
1983年ニューヨーク生まれ東京育ち。DEPT COMPANY代表。2004年に自身のブランド「mother」を設立。2015年からは父が創業した、日本における古着屋の先駆者的ショップ「DEPT」をリスタート。2010年代後半からは地球の環境問題や気候危機に対する意識を深め、アクティビストとしての活動も開始。さまざまなプロジェクトを立ち上げ、その運営に携わっている。
- ミノリ
2000年神奈川県生まれ。大学在学中から、フリーランスのモデルとして活動を始める。2024年の卒業を機に事務所に所属、本格的に活動を開始! 女優としても修行中。大学では社会学を専攻しており、環境問題への関心も高い。