2024.12.19.Thu
今日のおじさん語録
「世界はあなたのためにはない。/花森安治」
5

eriさん、教えて!
私たちが
政治を語るのって、
怖くないですか?
(後編)

インタビュー/ミノリ
構成・文/山下英介

女優やモデルの夢を叶えるために奮闘中のミノリさんと、彼女が最も尊敬するeriさんによる、楽しくてためになる学びの時間。2回目は私たちが社会に対してできることを教えてもらった。そのキーワードは「エンパシー」。さあ、みんなも誰かに思いを寄せよう。そして自分なりの一歩を踏み出そう!

気候変動問題は
人権問題でもある

前編はこちら

また環境の話に戻りますが、それほど環境意識の高くない自分でも、さすがに去年の夏を経験してしまうと、これはヤバいぞという感覚になりますね。

eri 今年は去年よりも暑くなると言われてます。ここから加速度的に温暖化は早まっていくので、気候変動を体感する機会は増えていくと思う。

ミノリ それでも焦ってない人ばかりなのは、なんでだと思いますか? すごくざっくりした質問になっちゃうんですけど、世の中が考えて生きている人と、何も考えていないどころか逆に「意識高いね〜(笑)」みたいな感じの人に分断されているというか、すごく壁を感じるんです。

eri いくつかの理由があると思うけど、まずは経済的な問題があると思います。自民党一強政治の中ずっと経済は悪化して、物価は上がり賃金は据え置きのこの社会で、今日のことで精一杯だったら地球のことを考えるなんて難しい。経済の状況と、社会問題への関心度は比例すると思います。あとは教育も大きいかも。それも今の経済に関連してくるけど、日本は人権や環境についての教育が足りていないなあと、自分が受けてきた教育を振り返っても感じます。気候変動の問題って、人権問題とものすごく密接なんです。

気候変動問題は人権問題だと。

eri 先進国と呼ばれている日本は、CO2排出量で言ったら世界の5位以内に入るわけですが、そんな経済大国こそ気候危機の影響は受けづらいんです。逆に大きな影響を受けているのがCO2をほとんど排出していない小さな国だったりして、今まさに海面上昇によって住む場所を失いつつあったり、極端な異常気象によって多くの人が命を落としている。つまり私たちが直接的に人間の生活や命を奪っている状況なんですが、少し前の私も含めてそういった感覚がとても薄いなと感じています。

ミノリ 今聞いて、本当にそう思いました。

eri 2021年にイギリス・グラスゴーで行われた「COP26(気候変動枠組条約締結国会議)」に行ったとき、まさに気候危機の影響で大きな被害を受けているとっても小さな島、ツバル(※)のアクティビストの男の子に会ったんです。彼はスピーチで「ぼくは自分の国をとても愛していて、これほど美しい国はないと思っています。そして今まさにそれを失おうとしている。ぼくのこのスピーチを偉い人たちがどれだけ聞いてるかわからないけど・・・ぼくは尋ねたい、じゃあ、ぼくたちはどこに住めばいいんですか?」と言っていました。私は今までも「気候正義(気候危機の中で起こる不公正を正そうという概念)」を頭では理解していたし、自分が気候危機の問題に向き合うにあたって大きなモチベーションになっていたんですが、彼の言葉を聞いたときに、初めて心の底から理解できたんです。日本に住んでいる私が、遠く離れたツバルに住む彼の生活や命を奪おうとしているんだって。目の前にいる彼を直接的に苦しめてしまっているんだって。でもそういう感覚って、日常ではなかなか得づらいものだし、みんなが関心を持ったり共感するってとても難しいと思います。だから直接声を聞けて、自分の心で理解できたことにとても感謝してます。

※イギリス連邦王国のひとつをなす小国家で、海面上昇により国土が沈みつつあると言われる。
〝REBEL FOR THE FUTURE〟とは、eriさんと仲間たちが立ち上げたプロジェクト。「(この日は売り切れてたけど)私もこのパッチ持ってる! 街中でもたまに付けてる人を見かけて、嬉しいんだよね〜」(ミノリさん)
ここ数年で頻発した異常気象によって、ようやく気付いた人も多いんじゃないですかね?

eri この気候危機の問題って、私たちが豊かさを履き違えた結果なんじゃないかなと思うんです。ちょっと前にタイに行ったときに驚いたんですが、若い子たちがインスタ映えだけのためにドリンクを頼んで、写真を撮ったら飲まずに帰るんですって。さっきミノリちゃんが言ってたコスパタイパみたいなフィルターを通していたら、気候変動のことなんて目に入らないよなあって。だから今の世の中の風潮と気候変動の間には、壁があるというより、見えないようになっている。全員が変わる必要はないけど、やっぱり社会全体が「ちょっとおかしいよね?」って気づいて新しい価値観へシフトしていくお手伝いができたらなあって思いながらアクションをしています。

政治を語るのに
勇気なんていらない!

「eriさんが話す言葉の根底には、人に対する愛情を感じる」(ミノリ)

ミノリ eriさんはそういう活動をされていて、なかなか状況が変わらないことに、しんどくなったりしないですか?

eri うーん・・・慣れてきたのかもしれないです。最初の1〜2年あたりで燃え尽き症候群というか、うつ状態になって病院に通ったこともあったけど、それは自分がやりたいことや望んでいる世界と、今の状況や体力的なバランスが崩れちゃったんだと思う。でも今は徐々にバランスが取れてきた気もするし、仲間ができたことも大きかった。今はみんなで励まし合いながら、どうやったら楽しく持続可能な形をつくれるかを探っています。

ミノリ やっぱりみんなしんどさを抱えているんですね。

eri 圧倒的に社会を変えようとアクションをするプレーヤーが足りてないなあって感じてます。人数が少ない分ひとりひとりへの負担が大きくなっちゃっているんじゃないかなあ。みんなつい頑張りすぎちゃうから、 それはお互いケアしながら「休むことも大切にしようね!!」って言い合ってます(笑)。

ミノリ 実は私も過去に親しかった人から、自分の暮らし方や環境に対する考え方を、「意識高いね」みたいに嘲笑されてしまったことがあって。しかも政治についても全く意見が違っていて、親しかったからこそものすごくショックを感じたんです。1対1でも乗り越えられない壁があるのに、たくさんの人の考えを変えるのは本当に難しいですよね。

eri でも、実は1対1のほうがしんどいかも。私もよくそういう相談を受けるんだけど、家族やパートナーみたいに近ければ近いほど、理解を深めるのが難しい。なんとか説き伏せようという気持ちにもなっちゃうのかもしれないですね。関係性が親密なほど「なんでわかってくれないの?!」みたいなマインドになりやすいというか。

その話は私もちょっと伺ったんですが、補足すると、件のご友人はまさに自民党支持者で、ドナルド・トランプもアリという方だったようです。

eri まあ、それは大変。

ミノリ 彼もきっと自分なりに勉強した上で、それを選択したんだとは思うんですが。譲らない言い方をされてしまったので、気の弱い私は言い返すこともできず、すごくショックでした。それ以来、どうしても親しい友人たちと政治の話をするのが怖くなってしまって・・・。

ぼくたちのいるファッション業界の界隈も、空気を読むのがすごくうまい人が多いから、あまり政治の話はしないですよね。

eri 確かにそうかもしれませんね。

だからそんな中でeriさんが政治について積極的に発言したり、さらに一歩踏み込んでデモに参加されたりしているのって、本当にすごいことだなって思いますよ。デモをやってたら、周囲の冷たい視線を感じることだってあるでしょうし。

eri 主宰のひとりでもあるコレクティブ「WE WANT OUR FUTURE」では岸田内閣の退陣を求めるデモを行ったり、選挙の時期には投票マーチ、インスタライブ、音楽イベント、街宣などのアクションもたくさん企画しています。普段からも政治の話や発信をよくしてるのですが、嫌な思いをすることは意外とそんな多くはないです。「すごいね〜」って言ってもらえることがあるんですが、そういったときに、すこしやっぱり距離をみんな感じているんだな〜と実感します。

本当にすごい勇気だなと思いますよ。

eri ほんとは政治の話ってもっとフランクにしていいし、少人数だろうが大規模だろうが、デモも誰がいつどこでやってもいい。だって私たちの権利だから! ただ、こうやって声を上げること自体にある自分の特権性っていうものもきちんと自覚しなきゃいけないなとは思います。やりたくたってできない人、声をあげたくてもあげられない人がたくさんいるから。だからこそ、自分にできることを100%の気持ちで。

なるほど、勇気がいると思われる社会のほうがおかしいと。確かにそうかもしれませんね。自分でも無意識にハードルを高くしていたかも・・・。

eri 1回来てもらえたら伝わるはず・・・! 楽しいからミノリちゃんもぜひいつか来てね!

ミノリ 行ってみたいです。「ぼくのおじさん」も一緒に行きましょうよ。

日本のおじさんたち、
社会と繋がってる?

ぜひぜひ取材させてください。SNSでeriさんのデモの模様を見ていると、とても若い人たちが多そうですしね。

eri そうですね。20〜30代前半くらいの子が多いと思います。ファッション界の中でも実際いろんな社会運動の現場に私より上の世代、おそらく1970年代生まれ以前の人たちがとっても少ないんですよね。ぽっかり穴が空いているというか・・・。ファッションは盛り上がっていたかもしれないけど、社会との繋がりは薄かったのかなあ?と感じてます。

確かにそうした現場で50代の姿を見ることはほとんどないですね。eriさんより少し上の世代の人間として弁明するならば、数十年前の若者としてはああいった活動はすごくオールドスタイルに思えたし、目的とは関係ない団体に取り込まれるような、ちょっと怖いイメージもあったんですよね。

eri なるほど! 確かに反原発のデモとかオールドスタイルで、私は好きなんですけど、初めての人にはハードルが高いかもですよね。デモのときの掛け声ひとつとっても、もっと楽しくしたほうがいいんじゃないかなとは思っていて。なので英語ではチャント(chant)って言うんですけど、アーティストのコムアイちゃんや松田〝CHABE〟岳二さんとチャント製作委員会を立ち上げて、3人で楽しいコールチャントをつくっています。前回の気候変動デモでみんなとやったんですが、私たちも参加者もすごく楽しかったので、味をしめました(笑)。

おお、元ニール&イライザの松田さんも!

ミノリ そういうのだったら行ってみたい!

eri ちょっと前にも新曲をつくったんですが、私たちはその著作権を放棄するので、好きなところで好きなように使ってもらえたらと思っています。

漠然とした質問ですが、今の世の中って、よくなっていると思いますか?

eri 難しいな・・・。良くなってることもあるし、変わらないこともある。変化はしているけど、必要なスピードには到底追いついていないと思います。

必要な変化に対して抗う動きがものすごいですよね。こんな時代なのにそこかしこで戦争が起きているし、トランプもまた大統領に返り咲いちゃうかもしれないし、日本の政治は腐敗しているし。

eri 本当に・・・。このままだと滅びちゃう〜!って思います!

ものを買うときに
誰かのことを思い浮かべて

おっと、そろそろいい時間ですが、ミノリさん、ほかにeriさんに聞いておきたいことはありますか?

ミノリ 私たちの世代に対して、これはやってみてほしいとか、これは避けてほしい、みたいなことってありますか?

eri そうだなあ・・・。そういうことにあまり世代は関係ないと思ってるんだけど、自分が食べたり、飲んだり、選んだり、買ったりしていく選択肢の先に、誰かが辛い思いをしていないかとか、何かを壊してないかということを気にしてみるのがいいかなって思います。だからといってそれを今すぐ全部やめなくちゃということでもなくて、まずは考えるだけでいい。それによって、自分がどういう生活をしたいのかとか、どういうことに自分の心が痛むのかってことがわかると思うんです。
例えばさっきのグミの話でいうと、裏の成分表示を見てみたら、ゼラチンって書いてある。じゃあゼラチンってなんだろう?と思って調べてみたら、豚の脂肪で、製造工程は可愛らしいグミからは想像できないようなグロテスクなものなんだけど・・・例えばそれを知ってゼラチンを食べたくなくなる人もいるかもしれないし、それでも食べ続けるという人もいるかもしれない。それ自体はどちらでもよくて、でもグミ一粒の先に何があるのかということを、知っているのと知らないのとでは大きく違うと思うの。


安い洋服を買うときにも、流行りのデザインでしかも1900円!すごくほしいけれど、これをつくっている人たちの工賃っていくらなんだろう?って調べてみたときに、そこでは適正な労働環境や賃金が保証されていなかったり、明らかな搾取があったりする。安くて可愛いという自分の喜びと、それを縫っている人たちの苦しみを天秤にかけたときに、自分だったらどっちを選ぶ?って。そのまま買い続けるのもひとつの選択肢ではあるけれど、少なくとも何も知らずに進んでいくのって誰にとっても良いことじゃないと思うんです。それは私も経験してきたことなんだけど、自分の生活が、選択が、どこに、誰に、どう関係しているのかを調べてみるのって、けっこう楽しいし、勉強になるし、生きることの解像度も上げてくれるのでおすすめです!

ミノリ 確かに。それを考えるだけで、いつものご飯を食べるときも、ありがたく頂けるような気がしますね。そのほうが豊かだとも思いますし。

eri 私はエンパシー(Empathy)って言葉がめちゃくちゃ大事だと思っています。日本語で言うと共感性。会ったことも見たことも、どこに住んでいるのかもわからないけれど、自分が選んだものと誰かは、常に繋がっているということを思い浮かべたい。自分の過去を振り返ると、ほんとにそういった想像力やエンパシーがすごく欠如していたなと思います。でも、自分だけはいいやっていう行動を繰り返し続けると、絶対によくない状況として自分に跳ね返ってくる。だから、自分にとっての「いい」と他の人にとっての「いい」がイコールで成り立っている世界を目指していきたい。

ミノリ 具体的に誰かのことを思い浮かべるというのは、今までの私にも欠けていたかもしれません。廃棄プラスチックで地球が汚れるという事実はイメージできても、その先にいるツバルの人たちのことを考えていたかと言われたら、そこまでは・・・。私ももっと考えていきたいと思います。今日はありがとうございました!

〜インタビューを終えて〜
ミノリさんの感想

ずっと憧れていたeriさんとの初対面に大緊張の私…。マグボトルから漂うハーブティーの香りが、eriさんの穏やかな生活のカケラのように感じられて、少し和らいだ。

eriさんの生活は “丁寧な暮らし” には違いないけど、”愛情のある暮らし” の方がしっくりくる。モノやその作り手、自分自身、そして地球に対する愛情がある。

今回お話を伺い、豊かな生活のヒントを得た。日用品、食事、身につけるものの選択が豊かさのミソらしい。

広告や流行アピールが目まぐるしい中、本当に自分にとって大切なものを見極めるのは難しい。コンビニに行けば何でも簡単に買えるし、衝動買いしちゃうときもある。

だけど、自分の価値観をきちんと育てれば、対抗できるかも。そのためにモノの背景や、自分がそれを買うことによる影響を知らなくちゃ。何も考えない方が楽ちんかもしれない。でも、それってeriさん風に言うとダサい!

裏面のカロリー表をチェックするくらいナチュラルに、商品の背景にも思いを馳せることができたら、自分にも、みんなにも愛情のある暮らしのサイクルが回るかも。

5月6日15:00〜、eriさんと仲間たちが渋谷にて反戦デモを開催予定! 興味のある方は、WE WANT OUR FUTUREのInstagramアカウントをチェックして、ぜひ参加してみよう!

eri(えり)

1983年ニューヨーク生まれ東京育ち。DEPT COMPANY代表。2004年に自身のブランド「mother」を設立。2015年からは父が創業した、日本における古着屋の先駆者的ショップ「DEPT」をリスタート。2010年代後半からは地球の環境問題や気候危機に対する意識を深め、アクティビストとしての活動も開始。さまざまなプロジェクトを立ち上げ、その運営に携わっている。

ミノリ

2000年神奈川県生まれ。大学在学中から、フリーランスのモデルとして活動を始める。2024年の卒業を機に事務所に所属、本格的に活動を開始! 女優としても修行中。大学では社会学を専攻しており、環境問題への関心も高い。

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