2024.9.15.Sun
今日のおじさん語録
「人間は一人では生きることも死ぬこともできない哀れな動物、と私は思う。/高峰秀子」
特集/ぼくのおじさん物語 『スペイン』 1

スペインらしさって
なんなのさ!
「ぼくのおじさん」流
マドリード案内

撮影・文/山下英介

「ぼくのおじさん」の編集人が、初めてのスペイン取材の拠点として選んだのは、首都・マドリード。まずは街中を歩き回って、ガイドブックには載っていない現地のおじさん御用達スポットを調べてきたぞ!

ホテルの朝食を
スキップして
さあ、街に出よう!

「ぼくのおじさん」の編集人は、子供の頃から旅が大好き。でも、観光客しかいない観光スポットにはあまり興味がない。体験したいのは、旅先の普通の人たちが、どんな街で暮らし、どんなものを食べて、どんなものを着ているのか?なんだ。要するに〝町場の文化〟とそのルーツを知るために、編集人はカンを頼りに、ひたすら街を歩き回るのだ。

マドリードの中心地、セラード広場近くにある、朝7時オープンのレストラン「Los 4 Robles」。几帳面なおじさんが淹れてくれるコーヒーと、おばちゃん手づくりの朝食は絶品だ! ちなみにスペインでは、紙ナプキンやレシートなどは床にポイッと捨ててしまう。散らかっているほど繁盛しているという証明なのだとか。
3º, Pl. de Celenque, 1, 28013 Madrid

そんな旅をする上で、一番大切にしたいのが朝食。観光客がまだ街にいない朝7時〜8時頃に営業しているカフェやバルを探して、毎日通い詰って人間観察をするのだが、今回ぼくが選んだのは、ホテルにほど近い「LOS 4 ROBLES」というレストランだった。プエルタ・デル・ソルという観光地ど真ん中にあるこの店は、夜ともなると外国人観光客ばかりなのだが、地元の人たちが集まるモーニング営業はローカル中心で実にいい雰囲気。おすすめのメニューは、カリカリに焼いたフォカッチャに擦りおろしたトマトをたっぷり乗せてオリーブオイルをかけた「パン・コン・トマト」! 美味しすぎて滞在中毎日通ってしまった。

それにしても、スペインに行ったことのある方ならご存知かと思うが、マドリードのごはんは本当にレベルが高い。個人的な感覚でいうと、イタリアよりも当たり外れが少なくて、観光客向けのレストランでもそこそこ食べられるような気がする。今回はひとりで動くことが多かったので、晩ごはんはほとんどバルで簡単に済ませてしまったのだが、お店ごとに特色があるので、バルをはしごするだけでも十分楽しめてしまう。特に「トルティージャ」、いわゆるスパニッシュオムレツを食べ較べてみるのもおすすめだ。編集人はハマりすぎて鼻にニキビができてしまったが・・・。

編集人はいたるところでトルティージャを食べたけど、一番気に入ったのはアントン・マルティン市場内のレストラン。日本では絶対味わえない、とろけるような食感が自慢。
C. de Sta. Isabel, 5, Centro, 28012 Madrid,
マドリードの中心エリアにお店を構えながらも、地元民で毎晩大混雑している「CASA TONI」。いわゆるモツ焼きがスペシャリテ!
C. de la Cruz, 14, Centro, 28012 Madrid
マドリードは内陸部だから肉料理が多いけれど、魚が食べたくなったら「La Paloma」へ。闘牛士御用達としても知られるこちらは、サーディンや白海老のグリルなどを得意とする。
C. de Toledo, 85, Centro, 28005 Madrid

ちなみにスペインの食習慣はほかのヨーロッパの国ともちょっと変わっていて、午後2時くらいからのランチに最も重きを置く文化。ビジネスの会食も、ディナーよりもランチタイムに行うことが多いそうだ。

夜10時〜11時頃に最も賑わうマドリードの街。ちなみにどんな小さなバルだろうと、コーヒー1杯だろうと、マドリードではクレジットカードが使える。とても旅しやすい街なのだ。

当然ディナータイムも遅めで、夜9時スタートが当たり前。夜7時に晩ごはんを食べていたら、観光客まるだしである。かつてスペインにはシエスタという習慣があり、14時から17時くらいまでは昼休みを取るので、その間はお店や企業、官公庁にいたるまでクローズしていたらしい。今や都市部ではそうした習慣はなくなったようだが、田舎の方に行く方は注意したほうがいいかもしれない。次回取材するときは、スペインの肉文化をじっくり探りたいな!

こちらはマドリードではなく、スペイン東部の都市サラゴサのバルで頂いたひと皿。牛の腸をカリカリに揚げた料理だが、味も食感も驚くほど関西の「油かす」にそっくりだった。

食事にもファッションにも
共通する〝牛〟の文化

お次は編集人の専門分野であり、今回じっくりと深掘りしてきた、クラシックなファッションや紳士服にまつわるおすすめスポットを紹介したい。・・・といってもマドリードの街を歩けばすぐにわかるが、イタリアやフランスなどと違って、スペインの伝統的なファッションカルチャーは、残念ながら都市部からはだいぶ姿を消してしまったようだ。インディペンデントなテーラーやセレクトショップを大都市であるマドリードで見つけることはかなり難しい。若者の間ではいわゆる古着ブームが勃発しているらしく、ヴィンテージショップはたくさんあるものの、東京と較べてしまうとその品揃えは正直言ってパッとしないし、スペインならではの掘り出し物もそうはない。しかしそれでも、じっくりと街を歩けば面白いお店はそこかしこに点在している。バスク地方の文化であるベレー帽やエスパドリーユの専門店、クラシックなマントのお店、そして蚤の市やミリタリーショップ・・・。


1886年創業の老舗手袋店「GUANTES LUQUE」。ウールからシープスキン、ペッカリーまで様々な素材のグローブが手に入る。価格は決して安くないが、クオリティはイタリアの名品と遜色はないと思う。
 C. de Espoz y Mina, 3, Centro, 28012 Madrid,
こちらはマント専門のテーラー「Capas Sesena」。東京で普段着るのは難しそうだけど、スペイン産のウール生地は興味深い。
Calle de la Cruz 23, Madrid
業務用のワークウエアやジーンズなどのデッドストックを大量に揃えた洋品店「Confecciones M Hernández」。服好きなら掘り出し物を見つけられるかも?
C. de Toledo, 22, Centro, 28005 Madrid
マドリードには「エスパテリア」と呼ばれる、エスパドリーユ専門店が多数存在する。有名なのは「CASA HERNANZ」だが、観光客の行列がとんでもないので、編集人としてはもうひとつの老舗「ANTIGUA CASA CRESPO」をおすすめしたい。歴史も品質も遜色ないのに、なぜかこちらは空いているのだ。
Calle del Divino Pastor, 29, Centro, 28004 Madrid
マドリード最大の蚤の市「ラストロ」は日曜日にしかやっていないけれど、その周辺には骨董屋や古着屋などが立ち並び、平日でも楽しめる。スペイン軍専門のミリタリーショップは、なかなかの見ごたえだ。

そして何よりも忘れちゃならないのが、「牛」! 闘牛や牛追い祭りに象徴されるように、スペインの〝牛文化〟は相当奥深く、当然ながらステーキなんて最高に美味なのだが、その副産物であるレザーも本当にクオリティが高くて、しかも安い。現地のおじさんたちに愛されている靴やバッグはちょっと野暮ったいのだが、それが逆にいい味出して今っぽかったりもするので、「ぼくのおじさん」としては全力でおすすめしたいし、もっともっと深掘りしたいと思っている。

マドリード市内に何店舗か構える靴屋さん「LOBO」。たいていのお客さんはエスパドリーユを買っていくけれど、編集人が目をつけたのはDAKOTA BOOTSという乗馬靴。かつてアーネスト・ヘミングウェイが履いていたブーツにも似たこちらは、ユーロ高の時代でも嬉しい100€! もちろん卸売価格ではなく、小売価格だ。これを買おうとしたらなぜか別室に通されて、社長が直々にフィッティングしてくれた。相当珍しい客だったのかな? 地元民が使っている実用品としてのファッションは、まだまだリーズナブルに買えるみたいだ。
残念ながらお店の閉店時間に間に合わず買いそびれてしまった、「ヒマラヤ」というブランドの健康スリッポンは59€。この靴も風合い豊かなレザーと朴訥としたシルエットが、実に素晴らしい。
残念ながら営業時間中に訪れることができなかった、マドリード随一の高級セレクトショップ「DENIS」。スペインならではのクラシックなテーラードウエアをモダンにアップデートさせた構成は、なかなか興味深い。
C. de Hermosilla, 11, Salamanca, 28001 Madrid,
名前は明かせないが、街外れにあるレザーの卸問屋兼工房では、「ぼくのおじさん」のオンライン通販用のレザーグッズをいくつか買い付けした。この国には、まだ未発掘の面白いものがありそうだ!

一度の取材なんかじゃ
語り尽くせない!

そんなわけで、「ぼくのおじさん」初めてのスペイン取材は計7泊の旅となったのだが、はっきり言ってそれだけでは全然足りない! 行きたかったレストランもたくさんあるし、マドリードを愛したアーネスト・ヘミングウェイの足跡ももっと辿りたい。土着的なカルチャーを色濃く残した田舎のほうにも行ってみたい。闘牛文化についても調べてみたいし、現地で活躍する職人さんだって、もっともっと取材したい。・・・そんな調子なので、偉そうに「スペインはこうだ」なんて言い切れないし、はっきり言ってこの特集は、まだまだ未完成。絶対に続編をつくるので、ご期待ください!

ガルシア・ロルカやアーネスト・ヘミングウェイなどの文化人が通った1888年創業のカフェ「Gran Cafe Gijon」。窓際の席に座って、街ゆく人々を眺める時間が、なんとも心地よい。次回はこうしたヘミングウェイの足跡を辿る旅をしてみたいな!
Paseo de Recoletos, 21, 28004 Madrid,

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