スペインの
いい味出してる
おじさんたちは
いったい何を
着ているのか?
撮影・文/山下英介
スペイン特集の第二弾は、この国のおじさんたちのファッションチェック! 果たしてスペインには、お洒落なおじさんやクラシックなファッションカルチャーが存在するのだろうか?
スペインならではの
ファッション文化って?
ジェントルマンスタイル発祥の国、イギリス。エスプリという概念を生み出した国、フランス。職人文化と色気あふれるファッションの国、イタリア。それに対して、スペインがメンズファッションの分野で語られることはかなり少ない。そこで「ぼくのおじさん」は、スペインの首都であるマドリードを中心に、この国のリアルなおじさんたちの装いを調査してみた!
・・・だが、これが予想通り、なかなかの苦戦を強いられた。大都市であるマドリードは短パンにポロシャツ、Tシャツといったラフなカジュアルが中心で、いい味出してるおじさんたちを見かけることはごく稀。現地の方に聞いたところ、やはりイタリアとは違い、現代の都市部では日常的にジャケットを着るようなカルチャーはほぼ残っていないという。「ぼくのおじさん」好みのお洒落なおじさんたちは、保守的な気風を残した山間部に多いとのことだった。秋冬になると、もうちょっと状況は変わってくるみたいだけど。
スペインならではのシャツ
「グアヤベラ」って何だ?
ただそれでも、イタリアやイギリスとも違う、スペインならではのファッション文化はまだ残っている! その代表格といえるのが、アーネスト・ヘミングウェイもよく着ていた「グアヤベラ」、通称「キューバシャツ」である。リネンや洗いをかけたコットン素材を使い、フロントのプリーツと4つポケットを特徴とするこのオーバーシャツは、日本でも古着屋さんではおなじみかもしれない。
こちらは「グアヤベラ」ではなくて、「サハリアナス」というサファリ系のシャツ。マドリードでは見つけられなかったが、古い紳士洋品店ではこういったシャツが販売されているという。70年代のスペイン映画に出てきそうなおじさんは、蚤の市の洋服商だ。
マドリッドが誇る
スペイン王室御用達
シャツ店「BURGOS」
この「グアヤベラ」は量販店から高級店まで、あらゆる紳士洋品店やセレクトショップが取り扱っているのだが、その中でも最も格式の高い専門店が「BURGOS」というビスポークシャツ店だ。
こちらは1906年に創業し、かつてはパリにもショップを構えていたという王室御用達の超老舗。古くはアーネスト・ヘミングウェイやオーソン・ウェルズ、ケーリー・グラント、パブロ・ピカソetc.といったセレブリティに愛され、近年では映画監督のウェス・アンダーソンもこちらのシャツを気に入って、最新作『アステロイド・シティ』に衣装協力したという名門である。スペインにおける大スターである一流の闘牛士たちも、こぞってこのお店でシャツを仕立てているのだとか。デザインもお洒落でクオリティが高いし、地下の工房で仕立てた高級なビスポークからリーズナブルな既製品まで幅広い選択肢を持っているので、マドリードを旅する際には、絶対にチェックしてほしい。
こちらのオーナーに聞くところによると、「サハリアナス」と呼ばれるサファリジャケットも、スペインの伝統的なジャケットみたいだ。こういうシャツやジャケットに、いわゆるパナマハットをかぶるのが、スペインの伝統的な夏のスタイルなのだろう。よく考えたらキューバもパナマも、もともとはスペインの植民地。つまりこの国の夏ファッションは、まさに植民地文化の残滓なのである。
スペインだけの
おじさんジャケット
「テバ」発見!
そんなスペインのファッション文化の意外なる奥深さにドキドキしながら街を歩いていると、ちょくちょく目に付くのが、普通のようでちょっと変わったジャケットを着たおじさんたちの姿である。一見テーラードジャケットみたいだけど、とてもリラックスした仕立てだし、普通ならあるはずのゴージの刻みもなく、袖のつくりはまるでシャツ。かといってシャツジャケットやカバーオールほどラフでもないという絶妙な塩梅だ。う〜ん、これは他の国では見たことないし、すごくいい味出してる。そして何よりぼくも着てみたい! じっくり街ゆくおじさんたちを眺めていると、意外とこのジャケットを着ている人が多いことに気付かされるんだ。
聞けばこの服は「テバ(TEBA)」と呼ばれる、スペインではかなり伝統的なジャケットなのだとか! ・・・さて、実はここからがスペイン特集におけるハイライト。クラシックなファッション文化を愛する「ぼくのおじさん」は、スペインのファッション文化遺産ともいえるこの「テバジャケット」について、徹底的に研究することにした!