スペインで見つけた
最後のおじさんジャケット
「テバ」を巡る物語
撮影・文/山下英介
実を言うと「ぼくのおじさん」がスペインに渡った最大の理由は、現地のいい味出してるおじさんたちがやたらと着ている「テバ」というジャケットのことを調べるためだった! そこで本題に入る前に、まずは「ぼくのおじさん」がこのジャケットに注目する理由について語っておきたい。
「ぼくのおじさん」には
アイコンが必要だ!
ジャック・タチ演じるユロ伯父さんの、よれよれのステンカラーコート。伊丹十三さんが行きつけのテーラーで仕立てた、チャイナジャケット。寅さんが襟を立てて着ていた、ド派手な裏地をあしらったチェック柄ジャケット・・・。「ぼくのおじさん」が憧れる素敵なおじさんたちには、アイコンとなるアウターが付きものだ。それも時代の流れに逆行する普遍的な味わいと、得体の知れなさと紙一重の〝自由〟を感じさせる一着が・・・。たいていの場合、それらは世界各国で長年つくられ続けている土着的なものだったりする。
でも、残念だけど2024年の世界には、そうしたおじさんたちの服がめっきり少なくなってしまった。オーストリアのローデンコートやチロリアンジャケットしかり、フランスのフォレスティエールしかり、フィレンツェのマレンマジャケットしかり、世界のおじさんたちが長年愛用してきたクラシックなアウターやその専業メーカーはどんどん廃業するか、生産拠点を海外に移して味気のない服に変わり果ててしまっている。いまさら嘆いたって仕方がないけれど、それってやっぱり寂しいし、ユニクロを着た「ぼくのおじさん」なんて、なんだか格好つかないじゃん!?
最後の〝ぼくのおじさん
ジャケット〟を
スペインで見つけた!
そんな世の中にちょっと飽き足らない思いを抱いている「ぼくのおじさん」だが、数年前にちょっとした〝発見〟をしていた。イタリアのファッション展示会で出会った、まるで『木村伊兵衛のパリ』に出てきそうな佇まいのおじさんが着ていたそのハンティング風ジャケットは、会場に並ぶ物欲しげでけばけばしい洋服たちとは全く異質のオーラを放っていた。土着的でどこか野暮ったさも感じさせるのだが、都会の絵の具に染まっていない素っぴんの表情が、たまらなく愛おしい。編集人が思わず尋ねたところ、彼はフスト・ヒメノ(JUSTO GIMENO)というスペイン人で、「TEBA(テバ)」と呼ばれるこのジャケットを長年製造販売している会社の社長なのだとか。
ぼくたちは産業として大きなイタリアやイギリスのことばかりマークするあまり、スペインにだってクラシックなファッション文化が存在するという至極当然のことに、目がいってなかったのかもしれない!? 編集人はすぐさま、海外のセレクトショップでこのテバジャケットを購入した。
ゴージの刻みがないラペルとシャツ袖が、テバジャケットにおける最大の特徴。気負いのない力の抜けたムードが、いい意味でのおじさんっぽさを感じさせる。
身頃や肩に薄い芯を入れているのもの、裏地もなくとても軽やかな仕立て。昨今の日本の気候にも合っていると思う。
軽い仕立てだけに、畳んでも型崩れしにくいので、旅行に持って行くと重宝しそうだ。
初めて着たテバジャケットは、ミラノやパリのビッグブランドが仕立てた都会的でラグジュアリーなジャケットとはなにもかもが違った。もっと気軽で、いい意味での土っぽさ・・・今や洋服からほとんど感じることができなくなった、〝テロワール〟のようなものを感じさせたのだ。この服には、スペインという土地や、文化の匂いが詰め込まれている!
以来、このテバジャケットが日本で買えるようになることを、ずっと待ち望んでいた編集人だが、この秋ついに本格的な展開が始まるとの一報が。これはもう、スペインに行くしかないじゃないか!
そんな経緯から始まった「ぼくのおじさん」のスペイン取材は、現代に遺された〝ぼくのおじさんジャケット〟ことテバジャケットのことを徹底的に掘り下げるとともに、この国のファッション事情やクラフツマンシップについても調査してきた。一着のジャケットから始まる物語を、ぜひお楽しみください。
エスプリ・ユージー・東京ショールーム
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