「テバジャケット」の
工房を見学!
スペイン、
仕立て文化の
テロワールを探して
撮影・文/山下英介
今やスペインにおける紳士服の仕立て文化は絶滅寸前といわれるけれど、そんな風潮のなか孤軍奮闘しているのがJUSTO GIMENO(フスト ヒメノ)だ。ここではサラゴサ市内にあるその工房にお邪魔して、テバジャケットが生まれる現場を覗かせてもらった。「よそと較べていいとか悪いとかじゃなくて、これがうちのやり方」と語るフストさん。この言葉にこそ、スペインという土地で生まれたテバジャケットにしかない〝匂い〟・・・いわばテロワールの秘密が隠されているんだ。
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退勤は午後3時!
スペイン流働き方改革
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さて、今日はテバジャケットがつくられる工房にお邪魔しました。イタリアのファクトリーや仕立て屋には何度も行ったことがありますが、スペインでは初めてです。・・・でもあまり人がいませんね。
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フスト・ヒメノ 実は私たちの工房は、朝7時に始業して、15時には終わってしまうのです。以前は昼休みを2時間取って17時までやっていたんですが、コロナ禍のときに現在のような就業時間にしたら、意外とそっちのほうが好評だったんです。
15時退勤ということは、今(15時半)働かれている方はすでに残業ですね(笑)。確かにそれでも7時間労働だ(笑)。いかにもスペインっぽいな〜。
フスト ここではデザイン、裁断、サンプルの縫製、アイロンがけなどを行っているのですが、女性が5人ほどしかいない小さな工房です。縫製は3社ほどある専属工房で行っていますが、それも非常に小さなものです。
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フストさんご自身も職人なんですか?
フスト 私はこの工房で育ったようなものですから、裁断もアイロンもお手のものですよ。でも、ミシンだけは苦手。手縫いは上手いんですけどね。
やっぱり熟練の技術が必要なんですか?
フスト そうですね。誰でも縫えるというものではありませんから、私たちのやり方で働ける職人さんを募るのが、とにかく大変です。だからみんなが満足して働けるように、待遇はいいですよ。
いまだに手裁断!
人間が引いた線に
勝るものなし
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さっきから女性の職人さんが手作業で裁断されていますが、これはサンプルか何かですか?
フスト いえ、商品です。
えっ、サンプルだけじゃなくて実際の製品も、コンピューターや機械も使わず、手で裁断しているんですか? ビスポークテーラー以外ではあまり聞いたことありませんよ!
フスト 機械だと間違えても気が付かないこともあるので、うちは創業時から変わらず、熟練の裁断士による手裁断です。ですからご覧のとおり、大量生産はできません(笑)。フスト ヒメノのクオリティがよそと較べてどうなのかはわかりませんが、うちはあくまでもうちの基準で、ベストな製品をつくるだけです。
テバジャケットを仕立てる上での重要なポイントって、どこですか?
フスト デザイン的にはゆったりしたシャツ袖や、前身頃の直線、そしてスタンドカラーにもなる襟でしょうか。通常のジャケットより袖にゆとりを持たせて動きやすくしているので、その分生地をたくさん使うんです。
工程上で大切にしていることは何ですか?
フスト アイロンですね。特に中間工程が重要で、袖やポケットなどのパーツひとつにしても、裁断した後にもアイロンをかけて、縫った後にもアイロンをかけて、と多くの工程を必要としています。大量生産品にはない、豊かなボリューム感がなにより大切です。ただのワークジャケットとは違うんですよ(笑)。
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写真左は創業当時の工房の模様。世界のほかの国と同じように、スペインの縫製の現場でも、女性が多く働いていたようだ。写真右は裁断用のハサミ。クラフツマンシップが軽視されているとフストさんが嘆くように、この国では研師を探すだけでも大変だ。
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思ったよりも人の手を使っているんですね。
フスト 1907年に創業した頃の写真を壁に印刷していますが、今とそれほど変わっていませんね。この襟を仕上げるためのアイロン台は、150年前から使われているものですよ。裁断用のハサミも古いものですが、今は研げる職人さんも少なくなって来たので、大切にしなくてはね。
生地は海外のものが多いんですか?
フスト うちではイギリス、スコットランド、イタリアの生地を使うことが多いですね。スペインはかつてカスティーリャ地方のベハルという地域で、ツイードなどの織物が盛んだったのですが、今はなかなか納得のいく生地が見つからなくて。
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そうですか。ぜひいつか、スペイン濃度100%のテバジャケットを着てみたいです! 限定モデルでもいいですし。
フスト それはいいですね! 私たちは決して大量生産を志向していませんが、若い職人さんの育成にも力を注いでいますから、これからもっともっと素晴らしいジャケットを、皆さんに着てもらえると思います。ぜひご期待ください!
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