もう、ただの服でいい。
パリの日本人デザイナー、
松下貴宏さんは
どうして〝変な服〟を
つくり続けるのか?
文/山下英介
ファッション業界で活躍する素敵なおじさんたちから、絶大な支持と尊敬を集めるブランドがエムズブラック(m’s braque)。パリ在住の日本人デザイナー、松下貴宏さんがつくる洋服は、クラシックにしてユーモラスなひとクセあり。着れば新しい自分に出会わせてくれる、エネルギーに満ちたコレクションを長年提供してくれている。まるで、「きみはこの服を着こなせるのかい?」と、ぼくたちに語りかけるかのような・・・。この秋、そんな松下さんが、日本に住むぼくたちのもとに、また新たな挑戦状を送ってきた。そこに書かれていたのは「ノブナガパリ」というこれまた刺激的なキーワード。はっきり言ってかなりの難敵だけど、受けて立たずにはいられない! そこで「ぼくのおじさん」は、パリに住む松下さんにインタビューを敢行。その攻略法を伺ってきた。なんと松下さんと「ぼくのおじさん」のコラボレートによるイベントも決定! ぜひこの記事を最後まで読んでほしい。
服好き御用達ブランド
エムズブラックの誕生秘話
松下さんがパリで活動を始めたのは、いつだったんですか?
松下 2000年の暮れですね。もともとぼくはパタンナーで、セレクトショップがやっているウィメンズのオリジナルブランドをデザインするという仕事で、パリに渡ったんです。その商品を見たとある企業の方からぼくのところに直接仕事の依頼があって、スタートしたのがブラック(BRAQUE)。最初は名前を隠しながらやってたんですがすぐにバレて(笑)、こっちを選ぶことになりました。それがエムズブラックになって、なんとか23年続いているという感じですね。
そんなきっかけだったとは知りませんでした!
松下 最初はウィメンズだったんですが、いつの間にかメンズが売れるようになって、今に至ります。実は日本にいるときはコイーバというメンズブランドをやってたから、もともとそっちのほうが得意だったんですよね。
コイーバ! 今はなき伝説のブランドですね! エムズブラックとはかなり毛色が違う英国クラシックなテイストですが、ジャケットのマニアックなつくりを考えると、なんとなくわかるような気もします。
松下 当時はイングリッシュドレープのジャケットばかりつくっていました。30’sや40’sのメンズファッションについては、誰よりも知ってたんですよね。
パリの日本人がつくる
〝ノブナガパリ〟ってなんだ?
今やエムズブラックといえば、洋服好きの間では確固たる地位を築いたブランドですが、それとは別に新しいブランドを立ち上げた理由を教えてください。しかもマニアックなエムズブラックよりもさらにエキセントリックで、ブランド名に至っては〝ノブナガパリ(NOBNAGA PARIS)〟。エムズブラックのファンであるぼくも、まだ付いていけませんよ(笑)。
松下 やっぱり長いことパリに住んでいると、自分の足元というかアイデンティティを見るようになって、日本的な要素を打ち出してみたいという欲求に、少し前から駆られていたんです。結局洋服好きの人って、イギリスものかフランスものが土台にあって、今年は70年代だ、来年は80年代だ、なんてやってるけど、それじゃないような気がしたんですよね。だからといってエムズブラックにはすでに長い歴史の中で築き上げてきたものがあるから、ここではできない。そこで〝ノブナガ〟という全く世界観の違うブランドをつくったというわけです。ただ、まだぜんぜんわかってもらえないですけどね(笑)。
名前の由来は聞くまでもありませんが(笑)、海外での展開を視野に入れて立ち上げたブランドなんですよね?
松下 そうですね。やっぱり海外で売っていきたいという気持ちは強いです。コロナ禍で立ち上げたブランドなのでまだ苦戦中なんですが。
エムズブラックとノブナガパリの一番大きな違いって、なんですか?
松下 ノブナガは、洋服じゃなくて〝服〟なんですよ。〝洋〟はつけたくない。40歳くらいのときに出展した合同展に、山本寛斎さんも参加されていたんですが、寛斎さんの右腕の方から「うちの社長に〝洋服〟って言うと叱られるんです」って話を聞いたんですが(笑)、その感覚は格好いいなあって思って。
洋服じゃなくて〝服〟!
松下 あの世代のデザイナーさんって、やっぱり世界で戦うという意識が強かったから、自国の美意識を理解してもらうために命をかけてきたわけですよね。でも、その下にあたるぼくたちの世代は、欧米、とくにアメリカから直接的なインスパイアを受けたものづくりが主流だったので、全然感覚が違うんです。だから寛斎さんの考え方にはすごくショックを受けたし、もう一度自分の足元を見つめなきゃと思い知らされました。
なるほど! ノブナガパリというブランドの誕生には、第一世代のデザイナーさんたちからの影響があったんですね。
松下 それまではカッティングやパターンづくりに関しても、英国のあの時代の古着が一番いい、みたいな考え方だったんですが、その後はだんだん線も単純化していきました。いっときは着物と洋服を融合したものをつくれないか、と試行錯誤したこともあったんですが、当時は挫折したりして、ようやく形にできたのが今だったんですよ。
長年思い描いていた服づくりに、今ようやくたどり着けたんですね。
松下 もともと30年パターンをひいてきたので、なんだってつくれるし、今のマーケットで何が売れているかもわかるんですが、やっぱり仕事って、面白いことをやりたいじゃないですか。だから売れることはわかっていても、今さらヴィンテージのリメイクみたいな服をつくったりしたくはない。それは自分じゃなくて人の仕事でしょう? ぼくは世の中にないものをつくりたいんです。
具体的にインスパイアの源のようなものはあるんですか?
松下 たとえば来年の春夏コレクションでは、織田信長の家臣だった弥助に注目して、当時の絵画から彼が着ていた服を想像して再現しています。日本の天然の染料で染めたり、パンツもハーレムパンツのようなものにしたり、なかなか気に入っています。その次の秋冬は、歌舞伎役者の坂東玉三郎さんをインスピレーション源にして、企画を進めています。ちなみに服はぜんぶユニセックスです。
2023〜24 秋冬コレクション。奇抜なブランド名に惑わされがちだが、服の既存価値にメスを入れるような、根源的なデザインがノブナガパリの真骨頂。
どうして松下貴宏は
パリで服をつくり続けるのか?
いやあ、圧巻のコレクションですね。確かにシルエットにしても、生地にしても、今まで見たことのないようなものばかりです。やっぱり松下さんの独創的な洋服づくりには、パリにいることが大きく作用しているんですか?
松下 結局、余計な人付き合いがないので仕事に集中できるんですよ。ぼくは最近になって携帯を持ち始めたくらいの人間なんですが、そういう生き方って、パリじゃないとできないじゃないですか(笑)。でも、ビジネス的には絶対に日本にいたほうがいいと思いますよ。バイヤーさんからの要望にだってもっとマメに応えられるだろうし。
確かにそうですね。特に日本は情報が多いから、「今年はアメトラがブーム」みたいな話だって、どんなに遮断しようとしても目や耳に入っちゃうでしょうし。
松下 他人に惑わされずに、素の状態で物事を見たいんですよね。あくまで自分の感覚の中で、あれが面白いとか面白くないとか判断したいんです。それがめちゃくちゃ世の中とズレているときもあるんですが(笑)。
そのズレ感というか、違和感こそが松下さんのつくる服の魅力ですよ!
松下 ぼくがパリで服をつくり始めたときは、ボタンひとつ仕入れるにもツテがないから、どこかに行って現金で買ってくる、みたいなことしかできなかったんですよ。あとはいまだにぼく、パターンを自分の手で引いているんです。世の中的には99%CADだから、工場や生産会社さんにはものすごく嫌がられますが。
縫製は日本で行っていても、そういうものづくりの環境や姿勢が、日本ブランドにはない独特の空気感というか匂いにつながっているわけですね。
松下 まあ、今の時代には合ってないだろうな、とはわかってはいますが(笑)、面白いものはつくっていると思いますよ。ぼくは「売れるもの」じゃなくて、「売りたいもの」しかつくりたくないんです。どんなに時代が変わってもね。
NOBNAGA PARISと
松下さん所有のヴィンテージウエアを
集めたポップアップストアを
11月11日〜12日に開催!
来たる11月11日(土曜)〜12日(日曜)、「ぼくのおじさん」が運営するAtelier Mon Oncleにて、デザイナー松下貴宏さんによるポップアップストアを開催! ノブナガパリのコレクションと、松下さんがパリで蒐集したヴィンテージアイテムというふたつの軸で構成される、今までにないイベントです。当日は、「ぼくのおじさん」編集人の山下英介のほか、このイベントのイメージビジュアルを制作してくれた企画室「NEJI」の主宰者である鶴田 啓さんが、販売応援として皆さんをお待ちしています。残念ながら松下さんは在廊されませんが、その発想の源に触れる貴重なチャンスを、逃すことなかれ!
【日程】
2023年11月11日(土曜)〜12日(日曜)
12:00〜19:00
【会場】
Atelier Mon Oncle(東京都新宿区水道町1-9)
【取扱商品】
●NOBNAGA PARIS コレクション
※ブランド創業からのストック30ピースほど
●ヴィンテージウエア
※ピエール・カルダンのブルゾン/アバクロンビー&フィッチのコート/リーバイスのGジャン/エルメスのブルゾン・シルクウエア/シャルべのニット/リーのサロペット/ファーラーのパンツ/ネットルトンのニット/ロック&コーの帽子etc.約50ピースほど
エムズブラックデザイナー。高校卒業後、独学でパターンを学びパタンナーとして活動。2000年に渡仏し、パリでデザイン活動を開始。2007年に〝モードとクラシックの間のリアルクロージング〟をテーマに掲げ、エムズブラックをスタートさせる。その才能は、ファッション業界の目利きたちから絶賛されている。
伝えたいこと
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なんともうすぐ90歳!
小林泰彦さんが
47年ぶりの
ヘビーデューティー本
「ヘビトラ大図鑑」を
出版するぞ!
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11月2〜3日開催!
P.J&CO.が提案する
奥深いヴィンテージ
シルバーの世界にようこそ
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ヴィンテージ好きも
モード好きも必見!
オーストラリアの新鋭
「Atelier Lavoro」が
日本初上陸
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この熱量を伝えたい!
鴨志田さんと坂田さんも
やってくる
コラボコートの
POP UP STORE
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8月3日〜4日!
平野史也さんの
オーダーイベント、
ここが見どころ! -
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「ぼくのおじさん」
公式ストアをチェック!
これがリアルな
スペインの
おじさん御用達! -
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実物はもっとすごいぞ!
HAN SHOEMAKERが
「ぼくのおじさん」のアトリエで
トランクショーを開催!
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極上生地を無造作に!
「ぼくのおじさん」と
赤峰さんが
バケットハットを
つくった!
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コヒーレンスの
ポップアップストアで
〝ぼくのおじさん〟
スタイルを手に入れよう!
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みんな集まれ!
「ぼくのおじさん学校」が
本屋B&Bで始まるよ -
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「ぼくのおじさんと
珈琲FAROの
チャリティ蚤の市」
結果報告!
みんなで〝寄附〟について
考えよう。
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すごい商品と見どころを
ちょっとだけ紹介!
「ぼくのおじさん」と
珈琲FAROの
チャリティ蚤の市
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11月25日に開催!
「ぼくのおじさん」の
チャリティ蚤の市 -
パリの「ぼくのおじさん」通信
ヴィンテージウエアと
ノブナガパリを
ごちゃ混ぜにしたら
見えてきた
松下貴宏さんの世界 -
パリの「ぼくのおじさん」通信
もう、ただの服でいい。
パリの日本人デザイナー、
松下貴宏さんは
どうして〝変な服〟を
つくり続けるのか? -
パリの「ぼくのおじさん」通信
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パリのLUTAYSが
正真正銘の
クラシックな
ベレー帽をつくった!
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1点ものの
スーツ生地でつくる!
『赤峰幸生の暮しっく』
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「ぼくのおじさん」が
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つくった!
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スーツを着るとき、
ネクタイを締めるとき。
〝ネクタイマエストロ〟の
動画を見よう! -
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写真とワードローブで味わう
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デ・ペトリロの真髄 -
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『赤峰幸生の暮しっく』を
手に取ってくれた方、
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『赤峰幸生の暮しっく』に
興味をもってくれた皆さんへ -
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ぼくたちのネックウエア
「スカーフタイ」を巻いて
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パリの「ぼくのおじさん」通信
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ジャン・ミシェルさんのエレガンス -
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『ぼくのおじさん』
創刊にあたって